石畳のワンデーレース。初勝利を挙げたのは日本の若武者!

石畳のワンデーレース。初勝利を挙げたのは日本の若武者!

レースレポート:トバ ~ ヴィエール

日本の若武者が、石畳を制した日。

ヨーロッパ参戦4年目の福富寿一が、とうとうやった。

石畳をねじ伏せる街中のワンデーレースは、春らしい陽気の中で開催された。自転車界のサラブレッド、福富寿一がこのレースに参加するのもこれで2回目だ。
前回は篠突く雨の中、泥まみれでプロトンに食らいつくのが精一杯だったが、今回は違う。チームのエース格に成長したことを証明する、堂々たる走りだった。

ベテランの勇気ある飛び出し。

最初に飛びだしたのはサクシャパンクの36歳のベテラン、サンロック(オランダ)。彼を中心に7人の逃げ集団が形成された。テクニカルな走りと温和な人格が功を奏し、ひとつにまとまったサンロックら逃げ集団ははスムーズに先頭交代を繰り返し、みるみるプロトンを引き離す。後続との差は最大7分にもなった。

しかし、2番目の石畳区間で逃げメンバーの1人が落車。サンロックはうまくかわしたものの、巻き込まれた3選手が足止めとなる事態に。半数近くを失った逃げ集団は、これまでのようなスピードが維持できなくなった。

それでも逃げ続ける4選手。しかし集団ははっきりと彼らを射程距離にとらえ、じりじりと距離を詰めていく。

彼らが集団に飲み込まれるのは、もはや時間の問題だった。

雌伏4時間。集団と共に石畳を抜けて。

福富はその頃、チームメイトとともに集団の前方でじっと耐えていた。3回ある石畳区間の全てで小規模な落車やスリップが発生したが、チームメイトの助けもあって危なげなく回避する。危険な石畳区間をチーム全員が消耗せず走り抜けたことが、この日のもっとも大きな勝因だった。

石畳区間を抜ければ、残りはアップダウンを含む15kmほど。市内を貫く幹線道路で、プロトンは前方を行く逃げ集団の姿を視界に収める。
長い長い雌伏のときを終え、若きライオンがようやく牙を剥いたのが、このときだった。

2人のアシストが福富を連れ、弾丸のようにプロトンを飛びだした。まるでゴール間近のようなめまぐるしさで先頭交代をし、みるみる後続を引き離す。
突然のこのアタックにナンプレのアシスト陣が反応するも、チームの足並みが揃わない。福富らは前を行く逃げ集団をあっさりパスするとさらに加速し、福富を切り離した。

ゴールまで残り10km強。春の麗らかな陽射しの降り注ぐ中、福富の孤独な一人旅が始まった。

独走ゴール、2位以下はスプリント勝負に

一方、後方に残ったアシストは巧みに集団をコントロールし、福富との距離を一定に保つ。TTも得意とする福富にとっては理想的な展開だ。テンポ良くアップダウンをクリアし、30秒以上の差をつけて市街エリアに突入した。

轟音を立てて先頭を追うプロトンははるか後方。最後のクランクを抜けるとアイウェアを外し、悠々と両腕でガッツポーズを取りながらの、貫禄すら感じさせるゴール姿だった。

2位以下はゴールスプリントとなった。混戦を制したのはナンプレの若手スプリンター、ミハエル・ダラス(21)。3位にはサクシャパンクのスティーブンソンが滑り込んだ。

実直な若者の唇が浮かべた、あるかなきかの笑み。

「ようやく勝てました。嬉しいです」
インタビューに答え、福富は生真面目に頷いた。謹厳実直そのものの面持ちに現地記者らが「サムライ」の呼び名を奉るのは、もはや日本人選手の宿命か。
だが、表彰台の福富が不器用ながらわずかに口元を綻ばせ、笑顔らしき表情を作っていることは、機微に敏感な日本の読者諸兄にならばおわかりであろう。

異国の地に確かな足跡を刻んだ福富寿一。彼の更なる活躍に期待したい。

※レース名、福富寿一以外の人名、チーム名は全て記者の捏造による

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サイクルタイム編集長
編集長兼サイト制作者。某箱根の山神の走りに惚れ込み、高校生たちのレースを追いかけている内に、気がつけばこんなところまで来てしまいました。選手たちの勇姿は勿論、自転車に関わるさまざまな人々の魅力を多方面からお伝えして行ければと思います。