「あおもり自転車さんぽ」~Vol.1 福富寿一さんと弘前さんぽ~

「あおもり自転車さんぽ」~Vol.1 福富寿一さんと弘前さんぽ~

春うららかな青森県弘前市を自転車で楽しむ

「CYCLE TIME」webサイト特別企画 『あおもり自転車さんぽ』。

このコーナーでは、昨年1年間かけて、プロ選手とともに青森県内を自転車でさんぽした様子をお送りする。

記念すべき第1回目は「弘前には思い入れがある」という福富寿一選手とともに、弘前を自転車でさんぽした様子をお届けしたい。

レトロな「サイクルトレイン」で電車の旅

福富選手と弘前を走ったのは5月。やわらかな光が降り注ぐうららかな春の日のことだった。弘前には何度か来ている、という福富選手に連れられて、自転車を組み立てた後、まず最初に向かったのは「弘南(こうなん)鉄道」の乗り場。自転車さんぽなのに電車!?と慌てる筆者をよそに、福富選手は手慣れた様子で切符を買い、自転車を持って歩き出した。

通りすがりに駅員さんに尋ねると、弘南鉄道大鰐(おおわに)線は、土日祝日と平日の一部時間帯がサイクルトレインとして開放されているとのこと。輪行状態ではなく、そのままの自転車が持ち込めるのは青森県内ではこの電車だけなのだという。しばらくしてホームに入ってきたのは、レトロ感漂う列車。日に焼けた臙脂色の座席が、なんともいえない良い雰囲気を醸し出している。乗客は我々のほかにはおらず、図らずとも貸し切りサイクルトレインを堪能した。

福富選手おすすめの補給食

30分ほど電車に揺られていると、温泉街が立ち並ぶ大鰐駅に到着。今日はここを起点にアップルロードを通って弘前に向かいます、と告げた福富選手は、まず「鰐come(わにかむ)」という物産施設へと向かった。施設内の売り場は明るく、りんご箱などを使った青森らしいディスプレイが広がっていた。置かれているのは地場産の野菜や加工品。そしてお土産の数々。そのなかから福富選手はお目当てのりんご菓子を購入していた。

「サイクリング時に最も手軽に食べられるアップルパイ」と福富選手が絶賛するそれは、細長く、個別包装になっているパイ菓子。パイの中には角切りになったりんごフィリングが詰まっており、おみやげ品と侮ることができない、立派な補給食であった。走る前の栄養補給とばかりに2~3本パクついたあとは、いよいよアップルロードへ。

りんごの聖地“アップルロード”

アップルロードとは、弘前市郊外に広大に広がるりんご園の中を通る広域農道の通称である。我々が訪れたのはちょうどりんごの開花時期で、桜よりは白い可憐な花が沢山咲いていた。りんご畑の中を進むうちに、あることに気がついた。それは福富選手がいつもよりスピードを落として走行していることだ。途中休憩の際にその理由を尋ねると「ハチを殺すわけにはいきませんから」とのこと。

実は、りんごの受粉には、マメコバチという人を刺さない無害なハチが大活躍しており、アップルロード付近ではとくに多くのハチが働いている。そんな場所を早いスピードで走ると車体やヘルメットにぶつかって死なせてしまうのだという。「マメコバチのおかげで美味しいりんごやアップルパイが生まれるので」と福富選手は謙遜していたが、自転車に乗っている時でも周囲の生き物にも配慮するという心遣いは、プロの選手として称賛に値する姿勢である。

弘前市 市街地へ

弘前を舞台にした自転車さんぽの終着点はレトロな洋館となった。この洋館は桜の名所でもある公園に隣接しており、庭園は総面積が約21,800m2(約6,600坪)もある、東北地方において2番目に大きい庭だという。洋館は1階が昭和レトロなカフェスペースとなっており、美しい庭園風景とともに津軽藩士が飲んだコーヒーを再現したものや、福富選手イチオシだというアップルパイが楽しめる。

美味しいコーヒーで一息ついた後、なぜ弘前に詳しいのかを福富選手に尋ねてみた。

「初めて青森を訪れたのは、大学1年の時でした。スランプで悩んでいた際に、高校時代のチームメイトたちが『気晴らしにアップルパイでも食べに行こう』と誘ってくれたのが弘前だったんです。友人たちの気遣いと、おいしい食べ物や豊かな自然に癒やされて、スランプはすぐに払拭できました。それ以来、プロになってからも、オフシーズンには訪れるようにしています。」

福富選手の強さの秘訣は、オフシーズンの青森での休息にあるのかもしれない。

青森はこれからが春本番となる。桜の名所として知られる弘前城は4月16日ごろ開花、22日ごろ満開を迎える模様だ。(なお、福富選手も楽しんだりんごの花は5月中旬に満開となる予定)ぜひ春の青森を満喫していただきたい。

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蒼井杜夫

蒼井杜夫

青森出身ライター。在京期間のほうが長くなりつつある。