サイクリスト・バレンタイン20XX レポート

サイクリスト・バレンタイン20XX レポート

自転車を愛するすべての人へ。サプライズに満ちたバレンタインチャリティーイベント

※キャラクターの進路は当記事のみの架空の設定です

去る2月12日(日)、東京都にて自転車ロードレースのイベント「サイクリスト・バレンタイン20XX」が開催された。

自転車マナーの啓蒙及び自転車競技の普及を目的とした当イベントは午前・午後の二部制で実施。午前の部では、メイン会場である明早大学を拠点とした周回レースが行われた。

小学生の部、ちびっ子選手が一生懸命自転車を漕ぐ姿には、会場に集まった人々から温かい拍手と歓声が送られた。
高校生の部では、強豪で知られる千葉総北高校、神奈川箱根学園高校のレギュラー陣が揃って登場。毎年のようにインターハイの優勝を争う二校にはスタート前から大きな声援が送られ、期待を裏切らない白熱したレースが繰り広げられた。最後は両エースの一騎打ちとなり、僅差ながら箱根学園の○○選手が勝利。レース後にはがっちりと握手をして称え合う爽やかな姿に、惜しみない拍手が贈られた。

そうそうたる顔ぶれ。午前の部メイン、プロアマ混成社会人レース

もちろん、社会人の部の盛り上がりはそれ以上のもの。スタートを待つ選手らの一団の中、ひときわ大きな歓声を浴びたのは招待選手として参加していた、国内外でプロとして活躍するレーサーたちだ。

国内最強・チームGNTの若きエース福富寿一。CV-DRレーシング所属の新開隼人、同じく御堂筋翔。スペイン・RDLから東堂尽八、イギリスTMEからは巻島裕介。SCLKが送り出したのは今泉俊輔、真波山岳の二人。大阪を拠点とするPNRLから鳴子章吉、そしてYWPDへの加入を決めた今年の全日本覇者・小野田坂道――自転車ロードレースファンならば目眩のするような錚々たる若手選手の競演となったのは、開催前にもお伝えしたとおり。海外選手の帰国が可能となるオフシーズンだからこそ可能となった豪華な顔ぶれは、東堂が発起人となって揃ったものである。

彼らの活躍もあって年々メディア露出を増やしている自転車ロードレースだが、それだけに近年は観戦者のトラブルや初心者サイクリストの事故などが問題視されている。また、彼らに続く若手を育成する環境についても、まだまだ発展途上というところだ。
そうした自転車競技を取り巻く環境をよりよくしていくことを主眼とした当イベントに、人気・実力ともに申し分ない彼らが参加することの意義は大きい。結果として昨年の倍近い来場者となり、チャリティー収入も上々だという。開会の挨拶でも主催から感謝が伝えられ、イベントのWebサイトにも大きく書かれていることだが、この記事でも改めて彼らに感謝の意を述べておきたい。

なにより自転車ロードレースファンとしては、大きな国際大会でもなかなか見ることのできない贅沢なレースが観られたことが幸せだった。夜明け前から観戦ポイントの場所取りを始めていた多くのファンも同じ気持ちだったことだろう。

新開と鳴子のスプリント対決。クライマー達のファンサービス

序盤、いきなり始まったのは新開・鳴子のスプリント合戦。二学年違い、同じ脚質だが、これまで直接対決の機会はあまりなかったという二人は、レース前から勝負の約束をしていたという。鳴子が観客を煽り、新開がバキュンポーズで応えて盛り上げる、ファンには垂涎の一幕も。
鍛え上げた肉体を誇る新開と、小柄な体格で空気抵抗を最小に抑えて突き進む鳴子、好対照の両選手の勝負は予想通りもつれにもつれ、最後はわずかに後方から差した鳴子の僅差の勝利。高々とガッツポーズで喜びをあらわにした。

続いて前方に飛びだしたのは東堂、巻島、小野田、真波のクライマー集団。アップダウンのゆるやかな今回のコースは彼らクライマーには物足りないものだ。今回は盛り上げ役に徹することにしたらしく、ゆるやかに先頭交代をしながら沿道の観客ににこやかな笑顔を――おもに東堂が――振りまき、思い思いのファンサービスを見せてくれた。

予期せぬサプライズの瞬間。そして決着

集団がゆるやかにクライマーたちを飲み込み、決着に向け隊列を形成し始める――と見えたそのとき、異変が起こった。集団後方から、選手の一団が上がってきたのだ。
その顔ぶれに悲鳴のような歓声を上げたのは、筆者を含む年季の入ったロードレースファン、それもユースやU-18年代を長年見続けてきた、ごくコアな層がほとんどだろう。

金城真護。荒北靖友。田所迅。石垣光太郎。待宮栄吉。泉田塔一郎。黒田雪成。葦木場拓斗。手嶋純太。青八木一。古賀公貴。銅橋正清。鏑木一差。段竹竜包。新開悠人。岸神小鞠――。
いずれも、高校・大学時代に全国クラスで活躍しながら、さまざまな理由でプロへは進まず、実業団選手やアマチュアレーサーとして、日本各地で活躍している選手たちである。プロとしてこの大会に招待された選手らと、なんらかのつながりのある人物ばかりだ。

筆者もこのうちの何人かのエントリーには前もって気づいていたものの、恥ずかしながらこれほどのメンバーが一同に会しているとは、この瞬間までわからなかった。

「自転車の限りなき未来に!」

そう叫んだのが誰だったのかは、意見が分かれるところだ。ともあれそこからは、楽しくも真摯な、とびきりのお祭り騒ぎが繰り広げられた。

学年で、あるいは出身校で、チームを分けたと思えば合流し、また別のチームを形成し、あるいは横並びの対決を見せるなど、めまぐるしい二周半。
筆者に確認できただけでも、福富と金城が荒北の背後のポジションを取り合うような動きを見せたり、高校時代には実現しえなかった石垣・小鞠・御堂筋の京都伏見トレインが組まれたり、田所と鳴子、泉田が集団を引くポジションを奪い合ったりと、目玉が二つでは到底足りないような、盛りだくさんの終盤となった。

最後には福富、今泉、御堂筋の三名が、それぞれ縁の深い選手らに発射されて横一線の展開。全員がゴールラインへハンドルを投げ、写真判定にもつれ込んだレースの決着は、今泉俊輔の勝利で幕を閉じた。ゴール地点へは多くのファンが詰めかけ、参加したすべての選手へ大歓声と割れんばかりの拍手が送られた。

午後の部メイン、チャリティー握手会も大盛況

午後の部は同じく明早大キャンパスを会場に、各自転車メーカーの最新モデル展示・試乗、自転車関連アイテムの物販が行われた。充実した食事屋台も提供され、走り終えたレーサーたちや観戦を楽しんだ観客らが思い思いに食を楽しむ姿が見られた。

午後のメインイベントとしては、バレンタインチャリティー握手会を実施。会場で販売される専用のカードを購入して応援メッセージを書き入れ、お目当ての選手に直接手渡せる企画である。バレンタインということで女性をおもなターゲットとした企画だが、用意されたカードは硬派なデザインのものもあり、シャイなオヤジである筆者もひと安心。売り上げは全額、自転車マナーの啓蒙及び自転車競技の普及のための寄付金となる。

イケメンレーサーの呼び声も高く女性人気の高い東堂、新開、今泉、真波をはじめ、日本でのこうしたイベントになかなか姿を見せない巻島や、老若男女にファンの多い鳴子・小野田、自転車一家のサラブレッドとして玄人人気のある福富、個性的なキャラクターが人気を博する御堂筋ら、それぞれの選手の前にファンが長い列を作った。
ファンサービスの手厚い鳴子や東堂の列がなかなか進まず主催から注意を受けたり、先ほど名前を挙げたアマチュア選手たちが強引に握手会場に呼び込まれる場面があった(主犯は東堂・新開・鳴子である)、といったエピソードも紹介しておこう。

選手たちからのメッセージ

閉会式にはプロレーサー全員が登壇し、集まった来場者に一言ずつメッセージを送った。

「皆様の応援、支援があっての我々です。少しでもお返しできれば嬉しく思います」(福富寿一)
「自転車はサイコーにエキサイティングだし、それは安全な乗り方や楽しみ方があってこそ。事故やトラブルは悲しいからね」(新開隼人)
「見た目は大事だが、それ以上に大事なのは。美しくあってほしいものだな、このオレのように!」(東堂尽八)
「自転車は楽しいショ」(巻島裕介)
「多くの人に支えられてここまで来ました。俺達も誰かの支えになれたらいいと思っています」(今泉俊輔)
「どーんと花火打ち上げるためには、目に見えへん地味なことも大事やからな!」(鳴子章吉)
「自転車ロードレースは、助け合ってひとつの勝利を目指す競技だと、ボクはまわりの人から教わりました。ボクも皆さんにそのことを感じて貰えたら嬉しいです」(小野田坂道)
「いやぁ、山がなくてつまんなかったね!でもオレ自転車がすげぇ好きだから、みんなも好きになってくれたらいいなあ」(真波山岳)
「自転車でおカネ稼ぐんも、ボクらの仕事やさかいなぁ」(御堂筋翔)

全員が言い終わったところで、東堂がふたたびマイクを握った。

「僕らはみんな、自転車を愛し、自転車を取り巻く人々を愛しています。どうか自転車に関わるすべての人々が、幸せなサイクルライフを送れますように! ――Happy Valentine!」

手慣れた様子で東堂が会場に向けたマイクへ、来場者が一斉に「ハッピーバレンタイン!」と唱和したところで、ステージは終了。
大きな拍手に送られて選手たちは退場した。

 

自転車を愛する人々のために開催された、サイクリスト・バレンタイン。二月とは思えぬ好天にも恵まれ、来場者の多くが、期待した以上の喜びを胸に帰路についたのではないだろうか。
来場した人々、また、さまざまな理由があって会場には来られなかった人々が、良きバレンタイン、そして良き自転車ライフを送れることを、筆者は望んでやまない。

photo by Pixabay

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サイクルタイム編集長
編集長兼サイト制作者。某箱根の山神の走りに惚れ込み、高校生たちのレースを追いかけている内に、気がつけばこんなところまで来てしまいました。選手たちの勇姿は勿論、自転車に関わるさまざまな人々の魅力を多方面からお伝えして行ければと思います。