上総サイクルフェスティバル2015開幕。「上総チャレンジカップ」レポート!

上総サイクルフェスティバル2015開幕。「上総チャレンジカップ」レポート!

総北三羽烏揃い踏み。上総チャレンジカップ開催!

うららかな秋晴れとなった本日、千葉県S市にて「上総サイクルフェスティバル2015」が幕を開けた。

今年が初となる当イベントは、土曜日と日曜日の二日間での開催。初日の今日は「上総チャレンジカップ」と銘打ち、キッズ・初心者から成年エリートまで、各カテゴリ別のレースがメインとなった。

補助輪つきのちびっ子から趣味のサイクリスト、最近本格的に乗り始めた若い女性、年季の入った熟年レーサーなど、各レースはバラエティ豊かな参加者で賑わったが、もっとも注目を集めたのはやはり午後一番に行われたロードレース・エリート男子の部だ。

およそ半年前、概要が発表された際に当誌でも報じたとおり、特別招待選手として小野田坂道(チームYWPD)、今泉俊輔(チームSPY)、鳴子章吉(なにわサイクルレーシング)の三名が参加。地元総北高校の三羽烏として名を馳せ、現在は国内外で活躍する彼らが久々に顔を揃えるとあって、日本全国からはるばる観戦に訪れたファンも多かったようだ。

それは、伝説の第一歩となった舞台。

ロードレース・エリート男子部門のコースは周回のない全長60km。パレード区間となる市街地を抜け、平坦道でのスピード勝負となる12kmの田園区間、続く急勾配の峰ヶ山ヒルクライムで山岳王を決し、激坂を下って亀石ダムを一周するアップダウンコース18kmを走り抜け、ダムの駐車場にゴールするという全容だ。ヒルクライムを除く国内のレースは交通事情もあって一週数キロのコースを何周かする周回レースが一般的だが、フェスティバル実行委員会の熱意によって、周回のない一本道のレースが実現した。田園区間の終わりにはスプリントリザルト地点、峰ヶ山の山頂にはそれぞれ山頂リザルト地点が設定され、レースの勝者だけでなくスプリント王・山岳王もそれぞれ表彰される本格ルールである。

実はこのコースは、小野田らを輩出した総北高校自転車競技部の春の伝統である一年生ウェルカムレースのコースを、そのまま模したものだという。総北高校では一年おきに周回ルートを入れ替えているが、この日のコースは小野田・今泉・鳴子らが参加した年度のルートそのままだ。

総北高校と、自転車のまち。

そもそもS市が近年「人と自転車の寄り添うまち」として自転車にやさしい街づくりを進めている背景には、総北高校自転車競技部とそのOB達のめざましい活躍がある。

中でも出色は、高校で自転車競技に出会い、その夏のインターハイで初心者ながら個人総合優勝という大金星をあげた小野田坂道。その後もエースクライマーとして総北高校を牽引し、大学時代でも数々の記録を打ち立て、昨春に国内初UCIプロチームYWPDに加入した小野田は、自転車競技界においてすでに伝説的な存在だ。

その小野田をはじめ、同期である今泉俊輔・鳴子章吉、さらに彼らの2年先輩にあたる巻島裕介、小野田らを率いた主将であり洋南大学を名門の一角に押し上げた金城真護、新進気鋭のスプリンターとしてこの春プロデビューした鏑木一差ら、錚々たるメンバーを育てた街として、S市がいまや「自転車乗りの新たな聖地」とされていることは、当誌の読者諸兄ならばすでにご存じかと思う。

当地では以前から峰ヶ山を舞台としたヒルクライムレース、市街地を使用したクリテリウムレースが毎年開催されているが、こうした自転車熱の高まりを受け、新たに総合力を競うレースとして企画されたのがこの「上総チャレンジカップ」だ。

実行委員会にも総北高校OBや関係者が多く名を連ね、レースをメインに据えつつ、さまざまなイベントで初心者からディープな自転車ファンまでが楽しめるイベント「上総サイクルフェスティバル」の実現にこぎ着けた。

小野田坂道の伝説の第一歩となったレースを追体験できるとあって、新設の大会ながら前評判は上々。エリート男子の部の募集人数は一週間で枠が埋まり、二次募集もすぐに満員に。総北自転車部OBや、彼らとかつて高校や大学の大会で鎬を削った選手らも多数エントリーし、開催前から大きな話題を呼ぶこととなった。

エキシビションマッチといえど、意気込みは本戦さながら。

「高校時代は僅差で負けてもうたんで、リベンジしたりますわ」(鳴子)
「もちろん完全優勝を狙います。手加減はしません」(今泉)
「あのときは途中までママチャリで大変だったので、今回は最初からロードレーサーで走れるのが楽しみです」(小野田)

出走に先立ち登壇した三人は、高校時代に戻ったような表情でそれぞれに意気込みを語った。

なお、小野田選手の発言を補足すると、当時シティサイクル(いわゆるママチャリ)しか所持していなかった小野田選手は、自転車店から貸与される予定だったロードレーサーの到着が間に合わず、通学に使用していた愛車での参加となったそうだ。
レース途中からロードレーサーに乗り換え、5分間のロスと経験値の低さにもかかわらず先頭まで追いついて、今泉を抑えて山岳賞を獲ったのだという。(直後、力を使い果たしリタイアとなったため、山岳賞は参考記録扱い)
まさに、伝説の選手にふさわしいエピソードと言えるだろう。

ナニワの赤い弾丸がスプリントリザルトを駆け抜ける。

晴天に恵まれた昼下がり、市街地でのパレード走行からレースはスタートした。

先頭で並走する小野田、今泉、鳴子の三選手に、沿道を埋めた観客から大きな歓声が上がる。この盛り上がりに、お祭り男の異名を持つ鳴子章吉が張り切らないわけがない。両手をハンドルから離して右に左に蛇行しながら観客の声援に応える。
ついには足を止めてサインをしようとしたところで今泉に制止され、ファンにはお馴染みの言い合いをしながらレースに戻った一幕は、大きな笑いを誘った場面であった。

そんな鳴子だが、スタートフラッグが振られてからは豹変。フラットの12kmを、まさに赤い弾丸となって駆け抜けた。ここで鳴子に挑んだのはやはり今泉。残り30mまでは両者譲らず、手に汗握るデッドヒートとなったが、やはり平坦路ではスプリンターに一日の長がある。ラストの伸びで完全に今泉を突き放し、こぶしを突き上げてスプリントリザルト地点を駆け抜けた。

やはり、山王。峰ヶ山を制したのは小野田坂道

続く山岳勝負は、スプリントに突っ込んだ勢いのまま逃げる今泉と、後方から追う小野田という構図となる。なお登りに入って脚を緩めた鳴子を小野田が追い抜くシーンでは、小野田と鳴子のハイタッチというファンにはたまらない一幕も見られた。

先行者を追って坂を登る小野田、先頭で独走する今泉。両者得意の展開に持ち込んだ対決は、小野田に軍配が上がった。残り1kmの地点で小野田が追いつき、並走。今泉も粘りを見せたが、スプリントで脚を使った直後の登りということもあり、小野田のハイケイデンスクライムの前に力尽きた。
最後は独走となった小野田が、はにかむような笑みを浮かべて峰ヶ山の山頂を制した。

ゴール地点へ。今泉の巻き返しなるか

スプリント、山岳と続けざまにライバルに後れをとった今泉だが、ここで心折れる選手ではない。すぐさま気を取り直し、峰ヶ山の下りであっという間に小野田を抜き返すと、再び独走。見ているほうが冷や冷やするようなぎりぎりのブレーキングで果敢に下りを攻め、先頭でダム周回に飛び込んだ。

少し遅れ、着実にペースを守って山を越えた鳴子が小野田を引き連れて山を下り、今泉を追う。ダム周回をひた走り、残り1/4ほどの地点でとうとう今泉の背中を捉えた。

後方から鳴子が今泉を大声で呼ばわり、今泉が振り向く。

風の抵抗に耐えての孤独なエスケープが失敗に終わるときというのは、肉体以上に精神に大きなダメージを負うものだ。ましてやこのレースでの今泉は、勝負に出たスプリント、山岳でことごとく勝利をさらわれ、最終ゴールはなんとしても獲るという決意の逃げだっただけに、そのダメージはいかばかりか――
などという危惧は、今回ばかりは杞憂であった。
追走が鳴子、小野田の二名だと認めた今泉は、それはそれは嬉しそうに笑うと、むしろ脚を緩めて二人を待ち受けたのである。

一団になって走り、何事か言葉を交わした三人は、それぞれ右手のこぶしを伸ばして打ち合わせた。そして一呼吸後、まるで今しがたレースフラッグが振られたかのように、彼らは横一線に並んで走り出した。

抜きつ抜かれつの真剣勝負。登りで小野田が先行したかと思うと、下りのコーナリングで今泉が抜き返し、かと思えば最短距離を突き進む鳴子が先頭をこじ開ける。
後続の一般参加選手をはるか後方に完全に置き去りにし、それぞれが持ち味を魅せての激しいレースはゴール直前まで続いた。

残り15m、わずかに今泉が先行。このままゴールに飛び込むかと見えた一瞬――、今泉は身体を起こして振り返ると、誘うように背後へと手を伸ばした。

半ば反射的にその手を取ったのは小野田。その小野田の逆の手を鳴子が握り、天へと掲げた。
今泉も小野田と繋いだ手を高く上げ、彼らは横並びにゴールラインを駆け抜けたのだった。

「ワイが言うたんですわ。三人並んでトップゴールできたらええなって。高校1年のインターハイのスタートのときやったかな。いやー、まさか執念深く覚えとるとは」表彰式後、しみじみと述懐したのは鳴子。

「結局インターハイは三年間ずっとぎりぎりの厳しいレースで、その夢は叶わなくて。大学からは別のチームになったから、できなかったな、残念だなって思ってたんですけど…」続く言葉を引き取り、にこにこと笑みくずれたのは小野田だ。

最後に、照れ隠しにか「高1のときは言いだしっぺが最初に脱落したしな」と鳴子に突っ込んでから、今泉がぽつぽつと語ってくれた。
「今日もライバル同士として参加しましたし、絶対勝ってやるつもりでしたけど、最後こいつらが追いついてきてくれて、最高のレースできて、ああこいつらとチームで良かったなって……いや、今は別チームですけど、やっぱりこのコースだからですかね。
あの日は、仲間だけど、ライバルだった。今日はライバルだけど、でもやっぱり仲間だよなって。ウェルカムレースは小野田がリタイアだったのも残念でしたし。
心残りがようやく果たせたかな、って気分です」

リザルト上では今泉が優勝、二位に鳴子、三位に小野田。だが、今日のレースを観戦した誰もが、優勝は「チーム総北の三人」と答えるだろう。

コンマ数秒を競い、たったひとつの栄冠を追い求めるのもロードレースの醍醐味だが、ときにチームをこえ、勝敗をこえる人と人の絆の美しさに胸を打たれるのもまた、ロードレースの魅力だ。
自転車を愛する全ての人のために創設された「上総チャレンジカップ」。記念すべき第一回大会に相応しい、感動的なゴールシーンだった。

最高の仲間、最高のレース。

レースの実行委員会も、この結末を大歓迎。急遽用意された一段のみの表彰台に三人が並んで肩を抱き合った写真は、早速公式ウェブサイトのトップページを飾っている。

実行委員会のコアメンバーとして発足当初から名を連ね、当日はエリート男子部門で6位入賞もした杉元照文さん(24)は、「最高ですね!」と親指を立てた。
「ボクは今日の参加者の中でも唯一、当時のウェルカムレースで彼らと一緒に走った経験者なんです。だから彼らがどれだけ速くなったのかも、誰よりもよくわかります。
招待選手なのに、ボクらのこと完全に置いてきぼりにしましたよね。でも、そういうのをこそ期待して、三人まとめて呼んだんです。最高の奴らですよ、本当に」

杉元さんは現在は地元企業に勤め、自転車は趣味として乗っているが、総北高校で彼らと過ごした日々は忘れられない思い出だという。

「自転車ってね、ほんとうに楽しいです。彼らを見ていると、心からそれが実感できる。自慢の友人で、仲間ですね」

杉元さんのほかにも、彼らと仲間として、先輩後輩、あるいはライバルとしての日々を過ごした多くの選手たちがこの場に集い、表彰台の上の三人を誇らしげな顔で祝福していた。

※このうちの何人かには掲載許可を得て、後日公開の写真ギャラリーに登場して貰うので、あわせてお楽しみいただきたい。(ロードレースファンであればあっと驚くような人の姿や、貴重なツーショット写真なども。お楽しみに!)

お祭りはまだ、終わらない!

明日の日曜日には特別招待選手のトークショー&握手会、チャリティーオークション、初心者のためのロードバイクレッスンや試乗コーナー、乗り始めたばかりの人を対象にした相談ブースなどが予定されている。

もちろん総北OBの三選手もトークショーを始め各ブースで活躍予定だ。
会場の大型ビジョンには本日のレースのハイライトも映し出される予定。ダイジェストながら、文章や写真では伝えきれなかったレースの興奮を目の当たりにできる。

入場は無料、最寄り駅の学園上総駅からメイン会場までは徒歩15分。アクセスは公共交通機関の利用が推奨されているが、もちろん自転車での来場は歓迎だ。駐輪スペースもあちこちに用意され、周辺の提携飲食店ではサイクリスト割引などもあるという。

世界に羽ばたく若きサイクリストを生んだ街、S市。ぜひこの機に訪れてみてはいかがだろうか。
早くも来年のレースにエントリーしたくなること請け合いである。

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サイクルタイム編集長
編集長兼サイト制作者。某箱根の山神の走りに惚れ込み、高校生たちのレースを追いかけている内に、気がつけばこんなところまで来てしまいました。選手たちの勇姿は勿論、自転車に関わるさまざまな人々の魅力を多方面からお伝えして行ければと思います。